Kaguyatom

(Explicit)

Immortal Man

 「不死」を英語で言うと"immortal"です。「イモータル」と読みます。かっこいいですね。

 

 "SOMA"というゲームがあります。いわゆるホラーゲームなのですが、SOMAでソーマと読むことと、「細胞」とか「身体」とかいう意味があることは覚えなくていいと思います。それはそうとこのゲーム、めちゃくちゃ面白いし考えさせられるんですけど、唯一難点があって、それは「怖い」というところです。

 

 ゲームのタイトルって大抵ネタバレなのでいつも意識しながらゲームをプレイするんですけど、やればやるほど「細胞」とか「身体」だと通じなくなってきます。このブログを読んでいる皆さんは「いや意味わからん」と思っていると思いますが、気になる場合は最後まで読んでください。

 

まずは簡単にあらすじを説明します。

2015年、カナダ・トロントで交通事故に巻き込まれたサイモン・ジャレットは、脳に障害を負ってしまう。障害を直すためサイモンは臨床段階の脳スキャンを受けるが、スキャン中に意識を失い、目が覚めるとそこは大西洋の深海にある研究施設『パトスⅡ』内の『ウプシロン』だった。ここはどこなのか?自分はどうやってここに来たのか?謎を探るため施設を見て回ると、キャサリンと名乗る女性との通話に成功する。「『ラムダ』に来てほしい」というキャサリンに従い施設内を移動するが、そこでサイモンは、現在が2104年で、2103年に彗星が地球に衝突したために地表の人類が全滅し、生き残ったのは深海にいる自分たちだけだということを知る。そしてサイモンは『ラムダ』に到着するが、そこで見たものは…。

 

 「いやいや、2015年に事故にあった人がなんで2104年に生きてるんだよ。長生きかよ」と思いましたよね?つまりここからはネタバレです。みなさんは、ネタバレですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 施設内を捜索していく間、自分のことを人間だと勘違いしたロボットや、謎の物質(WAUと呼ばれる人工知能の「機械と人間を合体させることで人類の滅亡を阻止する」という指令によって操られた構造ゲル)につながれた(それによってなんとか生命を維持している)瀕死の人間に出会います。サイモンは「すげえな2104年、人工知能もここまで来たか」と感心するくらいなわけです。まぁ実際のところはもう少し状況が違うんですけどね。

 

 『ラムダ』に到着してサイモンはキャサリンに会うんですが、そのキャサリン、人間じゃなくてロボットにインストールされた、というよりも保存されただけの、「キャサリンの人格のコピー」だったんですね。サイモンはここで「は?お前もロボットかよ。意味わからん」と思うんですが、キャサリンは「サイモン、あなたもコピーされたのよ」といいます。彼女は、この「研究施設内を捜索するサイモン」は、「2015年のサイモン」のコピーが、何らかの形で『パトスⅡ』内の脳にチップの内蔵された研究員の死体か何かにダウンロードされたものだ、と説明するのです。WAUの指令によって機械とストラクチャーゲル(モノを構成するゲルの意)で融合した死体は、サイモンという人間の意識のコピーが入ることで、サイモンとして活動している、ということになります。

 

 また、キャサリンはサイモンにARK(アーク)について説明します。ARKとは、研究施設のスタッフの脳スキャン(つまり意識)が人間として暮らす仮想世界をシミュレーションしているコンピューターのことで、崩壊した地球から何らかの形で人類が生き残る(?)ために開発されたものです。しかし、そんなARKが宇宙に打ち上げられておらず、地球の、それも『パトスⅡ』の一部『タウ』に残ったままだとわかったキャサリンは、サイモンと協力してARKを打ち上げるために行動します。

 

 研究施設である『タウ』は、『ウプシロン』や『ラムダ』などのセクターよりもさらに深い海底に位置します。キャサリンは、サイモンの入った(コピーされた)ボディとそのボディの着ているスーツでは海底の水圧に耐えられないため、より強固なスーツを着たボディに入る必要があると言います。サイモンはキャサリンの指示に従いボディを作り(パワースーツを着た死体にチップやらなにやらをゲルでくっつけ)、そのなかにコピーされます。一瞬の意識喪失のあと目を覚ますと、何やら会話が聞こえます。キャサリンと「サイモン」の、「なぜ転送が失敗したのか」という会話が。そこでサイモンは、自分は新しいボディの中に「移った」のではなく「コピーされた」のだと気が付きます。同時に「二人のサイモン」が存在していることにサイモンは混乱し、憤慨します。

こんなふざけたことがあっていいのか?サイモンは二人もいちゃいけないんだ!これがどんなにめちゃくちゃか分かってるのか!?

 

 サイモンは、取り残されたサイモンが直面するであろう状況(一人ぼっちで深海の研究施設で目覚めることになる)のことを考え、彼を殺します。「自分で自分を殺す」という体験をしたサイモンは、深海に向かうエレベーターでキャサリンと会話し、こう発言するのです。

僕らが死ぬとどうなるかは解明されたのか?そもそも「死ぬ」のか?

「あの世」みたいなものがあるとして、僕の場所は埋まってるんじゃないのか?だって本物の僕は100年前に死んでるんだ。僕の場所はあるのか?さっき殺したサイモンの場所だってそうだ。

なぁキャサリン、同じ人間のコピーでいっぱいの天国はあるのか?僕を偽物と呼ぶ人はいるかな?

ただのマグレだよな。「当たり」の身体で目覚めるなんてさ。

僕は単純にコイントスをして、もし負けてたら、あそこで腐り果てていただけだったんだ。

だって、そうだろ?どっちの身体で目覚めるかなんてわからないんだ。君だって「サイモンが当たりの身体で目覚めるようにする」スイッチなんて押してないはずだ。

あそこに残ったサイモンだって、「僕こそが本物のサイモンだ」って主張したはずだよ。最も、君も僕もわからないけど。

くそっ!僕は、僕たちは、なんてことをしたんだ!

でも君は気にしないだろう?なぜする必要がある?君はなんであれが僕じゃないとわかる?あそこで死んだ僕だって僕なんだ!今までと同じ「僕」だって!

こう言われたキャサリンは、子供の時の話をします。子供のころ、ビルの屋上に上って感じたことを。一瞬のことだったけど、世界と一つになったような、そんな安心感と一体感を感じた、と。「存在すること」もしくはそれを「認識すること」は、強く響くと。そして会話は続きます。

サイモン:

まだ君はそんな畏敬の念を抱くかい?たとえこんな状況でも。

 

キャサリン:

状況は違うけど。でも私たちはここにいるわ。

 

サイモン:

このまま続くことに意味なんてあるのかな?ほかのみんなはもういない。

残っている人はみんな、海の底のコンピューターの中に囚われたデジタルコピーだ。元の僕らを作り直したり取り戻したりすることなんてできない。

 

キャサリン:

あなたは今の自分が本当に不満なの?それともこれは100年前にスキャンを受けた男の話?

 

サイモン:

両方、だろうね。

100年前、トロントにいた僕にとって、どんなに最悪な状況でも、暗い未来が待っていても、僕のそれまでの人生が何かしら含まれていた。

気分は根無し草だ。僕が見覚えのあるものも、いるべき場所だと感じさせるものも何もない。ARKにたどり着いたとしても、同じじゃないのか?

僕は一人ぼっちのままだ。友達も、家族もいない。

 

キャサリン:

でも、新しく友達は作れるわ。みんなタイムトラベラーの話を聞きたがるわよ。もしそうでなくてもあなたには―私がいるわ。大したことではないかもしれないけど

ここでエレベーターが止まり、会話は終わります。コピーされた存在である自分にはもう何も残されていない…そんなサイモンにキャサリンは「私がいるわ」と…感動的ですね。

 

 エレベーターを降り『タウ』に向かうと、ARKを発見します。サイモンはARKの打ち上げ施設である『ファイ』にARKを送り出すと、自身も『ファイ』に向かいます。『ファイ』に着いたサイモンとキャサリンは、ARKを発射装置に載せることに成功し(ちなみに、ここで人間のキャサリンの死体を発見します)、打ち上げの直前に二人のスキャンをARKに入れることで、一緒に宇宙に行く約束をしました。そして、二人はスキャンとARKの打ち上げに成功します。

 

 二人は打ち上げに成功し、ARKに乗り込んだはずでした。しかし、そこはまだ『パトスⅡ』でした。なぜ自分はまだここにいるのか、サイモンは理解できません。

サイモン:

まだここにいる…?僕はまだここに…

キャサリン?キャサリン

 

キャサリン:

ここよ。

 

サイモン:

一体何が…何か間違えたのか?

 

キャサリン:

何も間違えてないわ。ARKは飛び立ったわ、星の中に。私たちはここ。

 

サイモン:

違う、僕らはARKに乗り込んだんだ。この目で見たんだ。発射寸前にロードが完了したんだって。

 

キャサリン:

ええ、私も見たわ。

 

サイモン:

じゃあなんで僕らはここにいるんだ!

 

キャサリン:

サイモン、何度も仕組みを説明させないで。あなたは何も聞いてない。なぜここにいるかわかるでしょう、あなたはARKにコピーされたの!ただ持ち越されなかっただけ。あなたは「コイントスに負けた」の!私だってそうよ!この前のサイモンだってそう!100年前、トロントで死んだサイモンと同じなのよ!

 

サイモン:

違う違う違う!ふざけるな!やっとここまで来たってのに。ARKを打ち上げたんだぞ!

 

キャサリン:

最悪なのはわかる。でも私たちのコピーは打ち上げられたの!キャサリンとサイモンは二人ともARKの中で無事なの!喜んだらどうなの?

 

サイモン:

頭おかしいのか?僕らはここで死ぬんだ!あの、クソどもが呑気に宇宙船で暮らしてる間に!あいつらは僕らじゃない!僕らじゃないよ!

サイモンは状況を理解できないままキャサリンを罵倒します。そしてキャサリンが答えるかというところで、『ファイ』の電力が停止し、キャサリンの入った機械も壊れてしまいます。そして、サイモンは、一人暗闇の中に取り残されることになるのです。

 

 

 

 ふと目を覚ますと、外の景色が見えます。道なりに進んでいくと、豊かな自然と、近未来的な都市の見える湖の畔でキャサリンを見つけ、再会を果たします。二人は再会を喜び、ARKに乗り込んだことを確かめ合います。

 

…もう一人のサイモンが『パトスⅡ』に取り残されたままだということを知らずに…。

 


 

 僕がホラーゲームが好きなのは、ただ単に恐怖を演出するだけでなく、必ずテーマを持っているからです。特にこの"SOMA"では、「生きるとは何か」「人間とは何か」そんなような問題を投げかけているように感じ、人生です。

 英単語"soma"には三つの意味があります。一つは"the body of an organism"「身体」、二つ目が"all of an organism except the germ cells"「生殖細胞以外の全ての細胞」、そして三つめは"a Vedic ritual drink"です。このゲームのタイトル"SOMA"は恐らく三つめから来ています。Vedicは「ヴェーダの」という意味です。つまり、"soma"は「ヴェーダに登場する飲み物」ということになります。インド神話における"soma"は、不死の力を与えるとされています。

 ゲームでは、脳スキャンをコピーすることで機械(特にARK)の中に入り、壊されたりしない限りは死なない、いわば不死の状態でした。これが、いわゆる"soma"なのかな、と思います。それどころか、コピーされた以上、自分が何人も存在することが可能になります。サイモンは自分が同時に二人存在している事実に混乱するも、結果として自分を殺しました。最後のシーンも、サイモンが海底に残されると同時に、宇宙のコンピューターの中で生き続けるサイモンが二人存在するわけです。しかし、どちらも本当に生きているとは言えないような、そんな虚しさがあります。海底に残されたサイモンは、実体として身体があるものの、海底に一人取り残された以上なにもできず、それこそ生きている実感などしないはずです。ARKの中のサイモンは生きているかもしれませんが、それはコンピューターによるシミュレーターの一部であるだけで、実際に生きているとは言えないのではないでしょうか。そもそも、本当の生身の人間だったサイモンは100年前に死んでいるわけで……。また、序盤から出てくる自分を人間だと勘違いしたロボットたち(しかもWAUによって無理矢理生き残らされてる)を殺さなくては先に進めないようになってるので、ますます「生きるって何なんだ…」となってしまいます。

 人間とはなんでしょうか。僕たちは人間ですが、もし脳スキャンを受けてそのコピーがロボットに入っていたら、僕たちはそれを人間だと言えるのでしょうか。データとしての自分がコンピューターの中にいたら、それは人間なのでしょうか。よく人格を持ったロボットが出てくるような映画で、そのロボットのことを『人間』というようなシーンがあります。しかし、それは人間が大半で、ロボットが少数派だからこそ出てくる考え方なのであって、ロボットが多数派になったら、少数派の人間たちは恐らく『自分たちこそが人間だ』と主張するのではないでしょうか。サイモンは最後、ARKにコピーされた自分たちのことを、「あいつらは僕らじゃない」と言いました。何が自分を自分足らしめ、人間を人間足らしめているのか、感情なのか、身体なのか、それとも両方なのか、ほかの何かなのか… 考えさせられますね。みなさんは、考えですか?

 

 ゲームの中で「コイントス」という表現が何度も使われていました。なんとも残酷な話ですが、自分たちが今生きているこの世界も、現実なのでしょうか… 某映画のように夢を見ているだけかも知れませんし、このゲームのようにコンピューターの中かもしれません。そうだとしたら、自分たちはコイントスに勝った存在だと信じたいですね。

 

おわり

 

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実は

 最近5枚のアルバムを聴いています。音楽はいいです。みなさんは、音楽ですか?

 

 ということで、限りなくおすすめのアルバム五枚の紹介になります。よろしくです。

 


 

 

  • Coloring Book - Chance The Rapper

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 これは以前書いた記事の人です。いいです。全ての曲に依存性があり、脳を溶かす作用があるため、このアルバムは限りなく違法に近い合法とされています。しかし違法か合法かを判断するときには聴く必要があるため、その時に脳がやられてしまうようで、合法のままであると予想されます。有識者の見解が待たれます。

 

これはおすすめの曲です。

 

 

 

  • Kauai - Childish Gambino

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 ハワイの話です。嘘でした。カウアイ島というところがハワイにあるそうです。残念ながら僕はアメリカ本土にしか上陸経験がないので、ハワイがどのようなところなのかは、お笑い芸人のかき氷屋さんが繁盛することくらいしかわかりません。

 一度でいいからハワイの夕日を見てみたいですね。

 

 

  • CRCK/LCKS EP - CRCK/LCKS

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 これはクラックラックスと読みます。読むとはなんでしょうか?心とは?

 気がつくと日本語の音楽はポップしか聞かなくなっていました。かつてポップアーティストの玉置浩二が『ポップやってるやつが最強』と言ってましたが、個人的には間違っていないと思います。僕がこれを言ったところでアッコさんには怒られないので安心です。よかったですね。

 聴いた途端予想以上に良すぎて「なんだこれは」「こんなことがあっていいのか」などと口走ります。そして黙ってしまいます。あとはアルバムが終わるまでひたすら感謝します。

 これはずっと聴き続けるだろうな、と思いました。

 

 

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 夏が近づくと雨が多くなります。雨が多くなると気分が落ち込みがちなのは、洗濯物を外に干せないからだと予想します。部屋干しでも臭わないなんて、嘘です。 そんなとき聞きたくなるのがこんな湿っぽい歌です。定期的にこの波が来ますが、毎回飲まれることなく乗れているので、究極です。

 

  • Ego Death - The Internet

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 ザ・インターネットはR&Bバンドとしてトップに君臨しています。インターネットといえど決して同クラスタ同士の殴り合いやオタクたちの気持ち悪い会話を表現しているわけではなく、専ら恋愛を描いており、人生です。やはりインターネットは青春に牛耳られており、このバンドが人気なのもわかります。

 

 

どうですか?

 

 


 

以上がおすすめ五枚のアルバムです。とにかくおすすめだと思われます。情け容赦なく脳を溶かしてくるので、寝る前に聞くと良質な眠りが得られると予想されます。

 

おわり

 

 

Ego Death
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The Internet
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手を怪我しました

 手の甲を怪我しました。平和です。

 

 シップが張られた僕の手を見て気になった英語の先生には「転んだ時にやったんだ」と説明しました。すると、小テストの点数が低かったので痛めたところを叩かれる寸前でしたが、「見極め」が成功し、後ろに回り込むことができました。見極めは大事ですね。みなさんは、見極めてますか?

 

 僕が怪我をしたのは、イライラして床を思いっきり殴ったからです。イライラしていても床を殴るというアイデアはなかなか浮かばないとは思いますが、寄生獣を読んだ次の日だったので、床を思いっきり殴ると床に穴をあけられるのでは…僕の右手はミギーではないのか…そういう思いでいっぱいでした。結果としては、手の甲が腫れて、非常にぼんやりした手になってしまうことが分かりました。ぼんやりとはなんでしょうか?心とは?

 

 ここまで書いて気が付きましたが、この記事に対するカテゴリーが作られていません。これはなんでしょう。日常?手の甲を怪我するのが日常というのは、日常なのでしょうか?日常とは?日常は日常であって日常ではない、そんな気がしてきたので、日常というカテゴリーは哲学ですね。もはやカテゴリーが哲学なのかもしれません。とすると、哲学は哲学です。みなさんは、哲学してますか?

 

 ところで、哲学という観点では、漫画『寄生獣』は非常に哲学的な漫画です。読んでも読まなくても、明日はまたやってきます。よかったですね。

 

 

 

バン、バン、バン スキート、スキート、スキート

 Chance the Rapperをご存知ですか?

 

 

 

 Chance the Rapperは、僕の大好きなLupe Fiascoやご存知Kanye Westと同じ、シカゴ出身のラッパーです。シカゴのバスケットボールチームはあまり好きではないので、シカゴにはあまり縁がないと思っていたのですが、どうやら僕はシカゴのラッパーは好きみたいです。まだシカゴに行ったことがないので、行ってみたらシカゴの街を好きになるかもしれません。わかりませんね。

 

 そもそも僕がチャンスの存在を知ったのは、無料でアルバムを配信しているラッパーがいるという情報を目にしたことによります。そう、無料なのです。以前ツイートしましたが、本人が言うには、レーベルやその他いろいろのビジネスとしての音楽業界を嫌い、自分のパフォーマンス(つまりライブ)のみでしか利益を得たくないとのことです。

 

また、チャンスは最新のアルバム"Coloring Book"の中の一曲"Blessings"でこうラップしています

I don't release my music for free, I release it for freedom

このラインを聴いた瞬間「おっ」となったワケですが、つまり何が言いたいかというと彼のアルバムは無料であるということです。無料なので聞きましょう。

 

 「タダだし聞いてやるか」くらいの気持ちで聞いたチャンスでしたが、聞いてみるとハッピーなサウンドとポジティブなバイブスに溢れ、なんとも元気になる曲ばかりでした。今となってはチャンスなしでは生きていけないくらいです。僕にとってのマリファナです。これで学校に見つかって謹慎になれば僕もラッパーとしてデビューできるかと思いましたが、学校側は音楽を規制していませんでした。残念。

 

 

 

 Chance the Rapperは現在3枚アルバムを出しています。

 チャンスの最初のアルバム"10 Day"は、プレップスクールに通っていたチャンスがマリファナを持ってたのがバレて謹慎を命じられた10日間に由来しています。デビューアルバムとしては相当高い完成度であると言えます。客演にVic Mensaを迎えた"Family"や、シングル曲(?)である"Windows"が有名ですが、僕個人的にはビギーの"Big Poppa"などにも使われたIsley Brothersの"Between The Sheets"をサンプリングした"Juke Juke"も頭振れるので好きです。そんな"10 Day"はなんと無料でダウンロードできます!無料です!聞きましょう!

 

 

 チャンスの二枚目のアルバム"Acid Rap"は、彼を一躍有名にした一枚です。ヒットチャートに載るくらい高い評価を受け、結果として次のアルバムでKanye Westや2 Chainz、Lil Wayneとコラボします。ここまで高い評価を受けたのは、彼のリリックが素晴らしいからです。「シカゴといえばギャング、ギャングといえばシカゴ」というくらいギャングのイメージを持たれるシカゴですが、チャンスは元ギャングだとかそういうわけではありません。貧乏な家の出というわけでもなく、父親が刑務所だとかそういうわけでもありません。ですが、ラッパーにはつらい過去が必ずあります。このアルバムの11曲目である"Acid Rain"でそれは語られています。そして何よりも「シカゴに住む」ということのリアルを描いています。"Paranoia"ではっきりとラップされているので皆さん聞いてみましょう。この"Acid Rap"には、もう一つすごいことがあります。それは無料でダウンロードできるという点です。タダで素晴らしい芸術に触れることができる喜びを噛み締めながら、ダウンロードしましょう。

 

 

 三枚目のアルバムである"Coloring Book"をリリースする前に、チャンスはThe Social Experimentとしてアルバム"Surf"をリリースしました。バンドとして結成されたThe Social Experiment略してSOXとトランペット奏者であるDonnie Trumpetとコラボしたこのアルバムは、Busta RhymesやJ.Cole、Big Seanなど有名ラッパーを客演に迎えた、豪華なアルバムです。ゴスペルの影響を強く感じさせるこのアルバムはとにかくポジティブであり、一曲目"Miracle"からポジティブポジティブしています。ヒップホップというよりもポップなサウンドであり、非常に聞きやすく、また聞いたことのないような音楽になってます。これも無料でダウンロードできますが、iTunes Store USのみの公開となっているため、Sound Cloudからストリームしましょう。同じ無料ですからね。

 

 

 そして最新のアルバムで、記事の最初に貼り付けた"Coloring Book"ではKanye West、Lil Wayne、Justin Bieberなど名だたるアーティストとコラボし、特徴であるライトなサウンドにさらに磨きがかかったアルバムです。ゴスペルの影響はさらに色濃く、明確に示されています。中でもシングルとしてもリリースされた"Angels"は最高なのでぜひ聞いてください。記事の初めに載せたようにSound Cloudからストリームすることができ、Apple Musicを使っている方はそちらからも聞くことができます。

 

 

 

 そんなチャンスのリリックの解説はヒップホップリスナー御用達のRap Geniusさんがやってくれていますので、気になった方はどうぞ。

 

genius.com

 

みんなもチャンスを聴こうね。

 

 

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The Art of Point Guard

 今回の記事は某ブログにNBAファンとして寄稿させてもらった記事になります。バスケットボールについて書いたので、バスケットボールについて知りたい方はご覧ください。

 

 


 

 

 今回のテーマは『ガード論』という、なんともまた異論と反論を集めそうなテーマになりました。

 え?「もはやポジションという概念が古い」?うるせえ、黙れ

 

さて、ガードというポジションを語る上で、三つのカテゴリーから見ることにしました。

  1. オフェンス
  2. ディフェンス
  3. バスケットボールIQ

の3点からガードが持つべきスキルについて持論を展開しようと思います。

 

①オフェンス

 まず、バスケットボールは点を取るスポーツである以上、オフェンスが最も大事です。「ディフェンスが~」「メンタルが~」とか正直どうでもいいですし、オフェンスのスキルを持っていることはNBAでは当たり前すぎてみんな軽く見てるでしょ?

 ガードが持つべきオフェンシブスキルには《パス》《ドリブル》がよく挙げられます。細かいことを言うと、パスにもパススピードやレシーブ位置などの技術も存在しますし、ドリブルにもキープ力など様々な要素が存在しますが、これらは《ボールハンドリング》としてひとまとめにしましょう。つまり、ガードがまず第一に考えるべきはこれなわけです。

 では、そのボールハンドリングで僕が特に重要だと思うものを紹介しましょう。それは、

  • ボールキープ力
  • パススピード

です。ボールキープに関していうと「当たり前だろ」と思うかもしれませんが、NBAのトップレベルのディフェンスに対してボールをキープできるのは非常に大事です。…おい、聞いてるのかラーキン?おい!

 パススピード、これはCP3やウォール、レブロンのパスを見るとわかりますが、スピードがめちゃくちゃ大事です。針の穴を通すようなパスでもディフェンスが反応できたら意味ないわけで、ちょっぱやパスを出す必要があります。アシストにつなげるには。ちょうどGSWとOKCのシリーズを見てるとわかりますが、GSWはパススピードが遅いのでスティールされたりシュートをリズム良く打てなかったりしてます。残念ですね。

 ここまで見て大体わかったと思いますけど、要は《TOをしない》ことが大切なわけです。TOというのはしてしまうものではありますが、ボールキープと速いパスを意識するだけで2個は減るでしょう。ウェストブルックならたぶん4個減ります。ラーキンならシーズン平均TOが0.5を切ります。そのくらい大事だと思ってください。

 さあ、ここでこのオフェンス項目の最初の文章を見てみましょう。そうです。「バスケットボールは点を取るスポーツ」なのです。ボールハンドリング能力が最も大事なスキルであるとしたら、スコアリング能力は最も基本的なスキルであると言えます。つまりガードだけでなくすべてのポジションの選手が持つべきものだということです。ただし、ガードに関しては必ずしもリーグトップレベルのスコアリング能力である必要はないと考えています。「フリーなら確実に決める」程度の能力で十分でしょう。

 

②ディフェンス

 ラッセル・ウェストブルック、クリス・ポール、マイク・コンリーなど、リーグを代表するPGには必ず高いディフェンス能力があります。ディフェンス能力はバスケットボールにおいてクリティカルなものである以上、「ディフェンスが上手じゃなきゃならない」みたいなことは言いません。いやだって当たり前でしょ?

 個人的に、ガードに一番大事だと思うのは《ボールプレッシャー》です。ボールプレッシャーをかけるといっても、抜かれないことは大前提ですが。抜かれるくらいならプレッシャーはかけるべきではないです。しかし、ボールプレッシャーはチームディフェンスのクオリティを高める一番の要素です。パスをワンテンポ遅らせたり、ドライブを遅らせたり…そういう積み重ねが大事です。ちなみに、クリスポールとマイクコンリーのスティールはほとんどプレッシャーからです。なぜスティールできるかといったらこれはカバーリングのスピードでもあるんですが、それもボールへの反応の良さが成せる業でしょう。

 ガードはしばしば、ボールマンにつくことが多いためか、ディフェンスで流れを変える必要があると言われます。これはスティール、ブロックなどディフェンスのワンプレイに目が行きがちですが、そうではありません。ボールマンに対するプレッシャー、速いカバーリングによって、相手のオフェンスのリズムを少しずつ崩すことが、流れを変えるために最も必要なことでしょう。その結果としてのスティールやブロックであると考えてもいいです。オフェンスでの少しの「気持ち悪さ」「流れの悪さ」が蓄積していったとき、シュートは入らなくなり、悪い形で終わったオフェンスに引っ張られる形でディフェンスも悪くなります。この時初めて「流れが変わった」といえるのではないでしょうか。

 ここでクリスポール大先生のディフェンスを見てみましょう、すごいですね

www.youtube.com

 

 

③バスケットボールIQ

 『basketball IQ』で検索すると、こんな文章が出てきました。

the ability to make the right play at the right time

 「正しいタイミングで正しいプレイを行う能力」と訳せますが、つまりそういうことです。

 ミスマッチができている、シューターがオフボールスクリーンを使っている、残り時間が40秒だ、1分半点が動いていない、などなど、様々なタイミングがバスケットボールには存在しますが、そういったタイミングで正しいプレイが選択できるかどうかが鍵になってきます。シュートなのかパスなのか?それともドライブなのか?ドライブするとしたら右か?左か?パスするなら誰に?バウンズか?ロブか?ノールックか? 様々な要素を含む一瞬で、正しい選択をしなくてはいけません。この『一瞬の判断力』で、得点につながるかTOになるかが決まります。TOの多い選手はこれがよくない場合が多いです。

 NBAファン御用達のThe Players Tribuneにビラップスの記事がありましたね。そこにこんな一節があります。

 You’ve got K.G., who’s our best scorer — 21, 22 per. You’ve got Wally, who’s our second-best scorer — 17, 18 per. If K.G. don’t have 12-to-14 points at halftime, and if Wally don’t have 8 or 9 — then I’m not doing my job. End of story.

  これはテレル・ブランドンがビラップスに向けて言ったことですが、PGがやるべきことのすべてを示していると思います。『誰が何点取るべきなのか』ということは、ゲームの流れを作る上で最も大切なことでしょう。

 NBAでは、1つのチームに数え切れないほどのセットプレイが存在します。そのそれぞれに1stから3rd、4thくらいまでオプションを設定しており、どのプレイをコールするかで誰が点を取るチャンスを得ることができるのかを選択できます。なので、残り時間や点差、選手の調子、同じセットを何回使ったか などを見てどのプレイをコールするかが、そのガードの『ゲームメイク力』を計る指標になります。『流れを読む能力』とも言えるでしょうか。これがゲームメイクね。OK?

 その点でやはり優れているのはジェイソンキッド、フィッシャー、クリスポールでしょう。『チームを勝たせるPG』には、必ずこの『ゲームメイク力』があります。毎試合選手の平均得点が動かないのがそのゲームメイクの特徴です。選手の調子によって前後することはありますが。実際上記三人はチームを勝たせてますよね?クリスポールはどうせ晩年には優勝してるよ、うん。

 そして大事なのは、バスケットボールIQとは『一瞬の判断力』と『ゲームメイク力』の両方を合わせたものだということです。ガードが持つべきはこのバスケットボールIQであり、それがよければ必ず勝利に近づくはずです。逆に言えば、バスケットボールIQの高くないガードがいるチームは負けやすいです。

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(画像に他意はありません)

 以上が僕個人のガード論になります。質問やコメントございましたら、僕のTwitterまでよろしくお願いします。書き終わった後で一応読み直して推敲しますが、どうせ「あ、あれ書いてない」とか「これも書いてない」とか出てくるので、反応ください。よろしくお願いします。

以上です。ありがとうございました。

 

 


 

 いずれは僕が以前書いていたバスケ関連についての記事もすべてこのブログに移したいと思います。こんな長い記事を読んでいただき、ありがとうございました。

 

HIP-HOP初心者が聴くべき洋ラップ25選 【おすすめRAPまとめ】

 僕はこのブログを始めるに至って、三日坊主にならないように、と、ホームページにはてなブログを設定しています。そして今日も例のごとく帰宅即PC起動のコマンドを打ち、お気に入りのブログをチェックしたのですが、どうやら『HIP-HOP初心者が聞くべき日本語ラップ25選』という記事が問題になっているようだったので少しのぞいてみました。

 

↓こちらが件の記事

www.miyachiman.com

 

↓そしてその記事への反応

blog.kaerucloud.com

enter101.hatenablog.com

 

 通学中常にHIP-HOPを聴いている僕ですが、J-Rapは一切聞きません。話題のフリースタイルダンジョンは好きですが、音源を聴くとちょっとダサいな、と思ってしまいますし、時々許せるラッパーは確かにいるんですが、ほとんどが「上辺だけだな」と感じさせるラッパーなので聞かないのです。なので、初心者の枠に入るどころかもはやJ-Rapという土台に乗っていない人間なのですよ、僕は。そんな僕が『25選』とか言われてももちろん1選も知らないわけです。もちろんその『25選』がなぜ批判されてるかも、記事を読んだところでわかりません。不毛な議論と不毛な時間の過ごし方という不毛な人生です。トロい人生しとんな!ってところです。トロい選曲しとんな!ってひどい中傷ですよね。僕に直接関係はないんですけど

 じゃあなぜこんな記事を書いているかというと、僕が大好きなヒップホップ、特に『ニュースクール』だとか『コンシャスラップ』と呼ばれるものが大半の、『おすすめRAP25選』を紹介したいと思ったからです。以上2種類のラップの説明は省きます。僕が『初心者にお勧め!』な選曲なんていう気の利いたことができるとは思いませんし、気になって調べるくらいの暇な人か知識欲のある人じゃないと曲を紹介しても聞かないでしょ

 

では25選列挙していきます。下に行くほど好みがわかれるように書く予定です。さっきも言ったんですけど気が利かない人間なので、うまくできるかわかりません。

 

  1. Jay-Z & Alicia Keys - Empire State Of Mind
  2. EMINEM - Lose Yourself
  3. Kanye West - Stronger
  4. Kendrick Lamar - Now Or Never (Feat. Mary J. Bilge)
  5. J.Cole - Crooked Smile (Feat. TLC)
  6. Donnie Trumpet & The Social Experiment - Sunday Candy Feat. Jamila Woods
  7. Chris Brown - Look At Me Now Ft. Lil Wayne & Busta Rhymes
  8. Kanye West - All Of The Lights
  9. EMINEM - Not Afraid
  10. A$AP Rocky - Everyday (Feat. Rod Stewart, Miguel & Mark Ronson)
  11. Drake - Pound Cake / Paris Motion Music 2 feat. Jay-Z
  12. The Notorious B.I.G. - Big Poppa
  13. Nas - Nas Is Like
  14. Lupe Fiasco - Kick, Push
  15. Jay-Z & Kanye West - Made In America (Feat. Frank Ocean)
  16. Big Sean - I Don't Fuck With You (Feat. E-40)
  17. J.Cole - Apparently
  18. Ice Cube - It Was a Good Day
  19. Kendrick Lamar - Bitch, Don't Kill My Vibe
  20. Kanye West - Heard 'Em Say
  21. Lupe Fiasco - Paris, Tokyo
  22. Chance The Rapper - Pusha Man (ft. Nate Fox & Lili K.)
  23. Kanye West, Jay-Z & Big Sean - Clique
  24. Kendrick Lamar - These Walls (feat. Bilal, Anna Wise & Thundercat)
  25. Murs & 9th Wonder - L.A.

 

 以上が25選です。書き始めると「これ25個もねえな…」と思いますが、15曲越えたあたりから「あれもこれも」となってきますね。結局自己満足で終わりました。ちなみに、ラップには必ずバックグラウンドがあり、紹介した曲のほとんどにメッセージが込められているので、聞き取れる方は聞いて、聞き取れない方はブログを読む傍ら調べてみましょう。たぶんそこに共感できたり感動できたりすればヒップホップが好きになると思います。僕が日本語ラップに関して「上辺だけだな」と思うのはこういう部分なんですけどね。まぁそこらへんは追々書けたら書こうと思ってます。

 ところで、Youtubeからリンクでも貼り付けてやろうと優しくて気の利く僕は思ったのですが、やはり世界は広い、Youtubeには僕よりも優しく気の利く人間がいるようで、ライブバージョンでさらに日本語字幕までつけてくれている動画があったので、これでお別れしたいと思います。この記事をここまで読んだあなたが、インターネットで物申す音楽評論家で、久々に頭に来たり、トロい選曲しとんな!ボケ!という暴言を吐くような方でないこと、それじゃない感とかいう主観を万人の意見かのようにぶつけてくる人でないことを祈ります。

 

www.youtube.com

 

追記 15曲目が抜けてたので追加しました

 

 

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5枚で1000円

 「○○デビュー」という言葉がある。ある何らかのきっかけによって今までのイメージとは違った行動をとることを意味するが、河原和音のおかげか、今ではすっかりメジャーな言葉となっている。

 「○○デビュー」には様々な用法があり、しばしば使われるのは「大学(高校)デビュー」のような周囲の環境の変化によるデビューや、「渋谷デビュー」のようなイベントによるデビューがあるが、最近見つけた中で最もドラマチックで最悪なデビューは「エイズデビュー」だ。

 今から約30年前、世間におけるエイズHIV患者は、元魔王軍百獣魔団長よりもひどい扱いをされており、「触ったら感染る」とか「ゲイ特有の病気」というように根拠のない迷信が当たり前だと思われていたのである。

 そんな世界でもしエイズと診断され、余命30日と宣告されたらどうなるだろうか。まず「そんなのはうそだ」と信じたくないだろうし、日に日に悪くなる体調などから信じざるを得なくなったとしても、そうなったときにはもう周囲の人間には疎んじられ、居場所を失っているだろう。そうなったらもう、死への恐怖と闘いながら、一人静かに涙を流したり、自分を見捨てた友人や同僚、無責任に余命を言い放つだけの医者などへの怒りで、必死に生にしがみつくはずだ。

 しかしそんな時でも必ず似た境遇にいる人や理解のある人がいるのが面白いところで、そういった人との出会いや自分自身の成長によって人は「デビュー」することができると思うと、君と青い車で海へ行くのはいささか早すぎる気がする。

 ところで、30年前のアメリカは認可されたHIV治療薬が少なく、"AZT"と呼ばれる治療薬が臨床試験段階に入っていた時代であった。エイズになってしまった以上、必死になって情報を集めた結果その薬の存在を知ったら、人はどうするのか。さらに、その薬が実際には酷い副作用があることや、隣国ではより良い代替薬が手に入れられるとわかったら…?

「だったら、密輸して死ぬ前にひと稼ぎしようじゃん?」

  無許可のものを販売することはもちろん違法であるが、それを隠す手段はたくさんあることは、このブログにたどり着くようなネットの住人ならもちろん承知の上だと思うが、薬の出回る場所としてクラブはよく挙げられる場所であるイメージがある。高級なところならなおさら危ない気もする。それがいわゆる裏社会だと、私の少ない人生経験では、考えるしかない。

 「5枚で1000円」というのは、友人がレンタルビデオ店でアダルトビデオを借りるときの決まり文句だが、『ダラス・バイヤーズクラブ』の「1ヶ月で4万円」というルールと比べたらお得に聞こえる。それは30年前でも同じだっただろう。HIV患者を除いて。

 そんな『ダラス・バイヤーズクラブ』では、4万円の会費を払えば無料でHIV治療薬を手に入れられる。だが、もちろん利益のために設立されたクラブである。会費を払えない人間には薬を渡さない。しかし、そんなクラブにも転機が訪れるのだ。それまで利益だけ考え経営されていたクラブが、あるきっかけによって赤字も気にせず薬を渡すようになる。まさに「善良デビュー」というわけである。

 人生における「デビュー」の数は非常に多いが、それよりも遥かに多いのが「デビュー」のチャンスだろう。『ダラス・バイヤーズクラブ』はそんなチャンスを生かした人の話だ。レンタルビデオ店に行くときは、是非ともこのタイトルを思い出してほしい。5枚で1000円なんだから。

 

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