Kaguyatom

(Explicit)

ゆくアルバム、くるアルバム 2017

 

 お久しぶりです。ついにオフになるまで記事を書けませんでした。何か月ぶりだ?ええ?

 

 みなさんは昨年の記事『ゆくアルバム、くるアルバム』を憶えているでしょうか?

kaguyatom.hatenablog.com

 今年ももう終わりということで、音楽の話です。自分にとってかなり挑戦の年で、今年はオールドスクール及びソウル・ファンク等、音源制作のためにルーツを攻めていました。"Momma"*1ということです。おかげで新しいアーティストを発掘する余裕はありませんでしたが、聴いたものはどれも良く、特にブラック・ミュージック界隈では今年は凄かったのでは…?と思っています。というのも、ジェイ・ジーやケンドリック、エミネムなどビッグネームもアルバムをドロップしましたし、ロジック、ジョーイ・バッドアス、ヴィック・メンサなど若手注目株のアルバムもたくさん出て、わざわざ発掘しなくても何度も繰り返し聴けるものがありすぎました。いい年でした。

 

 ということで、『ゆくアルバム、くるアルバム 2017』ですが、TOP10です。17枚は多い

 


 

  1. Big Fish Theory - Vince Staples

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     『Summertime '06』からわずか二年。というか、間に『Prima Donna』出してるので、ほぼ毎年アルバム出してるってことになるんですね。ヴィンス・ステイプルズの特徴は、ぶっ刺すビートと声ですよね。早めのビートに鋭い声が乗っかり、内容も濃くて最高でした。タイトルにもなっている『Big Fish Theory』というのは、水槽のサイズによって魚の大きさが変わるってやつなんですが、ヴィンスは「才能があっても"社会"という檻に囚われていると発揮できない」ということを伝えていて、『Summertime '06』と同じく黒人社会の闇を描いています。個人的に『Love Can Be...』とか『Bag Bak』がヴィンスっぽくて好きです。"Wannabes buzzin"というリリックもトラップやマンブルが流行っていることに対するアレっぽくて最高ですね。

     

     

  2. 4eva is a Mighty Long Time - Big K.R.I.T.

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     ビッグ・クリットのアルバムを俺ほど待っていたやつはいないのでは…?

     僕のビッグ・クリットへの評価は、ジェイ・コール、ケンドリック・ラマーと並ぶレベルで、内容のコンシャスさは本当にトップレベルだと思ってます。ビートは少しポップ寄りで聴きやすい感じなんですが、内容のレベルがもう聴きやすいとかそういうの超越してますね。構成的にはコールの『4 Your Eyez Only』と似ていて、二つの視点から描かれてます。二枚組構成になっており、全部で22曲あるかなり長いアルバムで、聴きこむの大変でした。前半はラッパー"ビッグ・クリット"としての曲で、後半は一個人である"ジャスティン・スコット"としての視点で書かれた曲になっています。歌モノっぽいのもいい。めちゃくちゃコンシャスな内容なのに、なんとなくポジティブになれる、ビッグ・クリットらしいアルバムでした。

     

     

  3. The Autobiography - Vic Mensa

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     一曲目『Didn't I (Say I Didn't)』からブチ上げてきて、内容も「俺はこんなすごいラッパーで、アガってきてる。けど自分のルーツ*2は忘れちゃいけないんだぜ」というポジティブなやつです。スピットする感じもめっちゃいいし。これはよくラッパーが使う手法なんですが、サウンドとリリックで相反する内容を描くやつやってます。『Rollin' Like A Stoner』です。アガる曲かと思ったら、内容は「パーティ↑*3どうなん?」という、コンシャスっぷりです。あと最後の最後にシングル曲、プシャ・Tとファレルとの『OMG』を持ってくるのもヴィックっぽいです。「これが俺だ」みたいな。

     

     

  4. MADNASPAIN - BASE

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     唯一の日本人ランクインです。以前ラップの記事で紹介したBASEの3枚目のアルバムです。以前の記事です

    kaguyatom.hatenablog.com

    kaguyatom.hatenablog.comBASEの特徴はなんといってもその「黒さ」*4です。どうしても日本語ラップはなっちゃうんですが、そういう「ダサさ」を一切感じない、ヘビーなアルバムです。日本のものを聴くとき、僕が注目するのはフロウとビートなんですが、BASEはかなり高いレベルにあると思ってます。日本語になると内容とかどうでもよくて、古き良き「俺はスゴいんだぜ」みたいなヒップホップスタンスに惚れちゃいがちな僕ですが、見事にやられました。残念なのはApple Musicにないことで、聴きたい方はiTunes Store等から購入しましょう。*5

     

     

  5. Laila's Wisdom - Rapsody

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     ラプソディって名前、ズルくない?プロデューサーが『ズルい名前ランキングNo.1』のナインス・ワンダーだから仕方ないけどさ。声もめっちゃカッコいいし、ビートもカッコいいし、聴くだけでも文句なしの出来なのに、ケンドリックとの『Power』での、ビヨンセ『Formation』みたいな女性の力訴えかける感じ。もうね。SWAG*6ですよ。あと、僕めっちゃ泣き虫なので、『Chrome (Like Ooh)』のメッセージ刺さりました。男でも、泣いてええんやで……

     このアルバムに関してインタビューで答えてました。

     あと印象に残ったのは『U Used 2 Love Me』で、タイトル見た瞬間に「これはコモン『I Used to Love H.E.R.』では?」と思い聴いてみると、まぁそう取れなくもない感じでした。コモンみたいにネタバレしてくれるといいんですが、そういうわけでもないので、俺の考え過ぎなのかもしれませんけど。でも、ここ数年でヒップホップ業界が変わってしまったのは事実なので、ダブル・アンタンドラ*7の可能性もありますね。いや~~いい

     

     

  6. Scum Fuck Flower Boy - Tyler, The Creater

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     タイラー・ザ・クリエイターはアルバムを出すたびに評価を上げていると思っていましたが、今回のアルバムで一気に上がったんじゃないかなと思います。ちゃんと『Goblin』の時のような攻撃的な雰囲気も残しつつ、色々なトピックに言及していて、まさに正統進化だな、といったところです。サウンド的に今年一番好きかもしれないです。彼はずっとそうですが、正直なんですよね。それこそ『Who Dat Boy』みたいな自信のあるトラックもそうですし、『November』みたいな不安そうなタイラーもいいです。素直さで言えばジェイ・コールが一番かな、と思いますが、タイラーもなかなか好きです。

     

     

  7. ALL-AMERIKKKAN BADA$$ - Joey Bada$$

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     アルバムタイトルになっている『ALL-AMERIKKKAN BADA$$』は、わかる人なら「おっ」となるものだと思います。もちろんアイス・キューブの『AmeriKKKa's Most Wanted』ですよね。レジェンドである2パックより「俺の方がラップがうまい」発言*8で注目を浴びてしまったジョーイですが、こういうところでオールドスクールへのリスペクトを表明するのがいいですよね。そもそも上記の発言も「ラップスキルに関しては」という話だったので、ちゃんとインタビュー聞いてない奴らが勝手にキレてただけだったんですけどね。ていうか、ジョーイの曲聴いてればリスペクトしまくってるのわかるはずなのにね。

     ともかく、このアルバムは「KKK*9の文字からもわかるように、白人至上主義や政治、いつまでも変わらない差別に対するメッセージになっています。ジョーイはずっとこういう社会問題に言及していて、ヒップホップのあるべき姿を体現している数少ない若手ラッパーかな、と思います。必聴です。

     

     

  8. Everybody - Logic

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     黒人と白人のハーフでありながら、白人と同じ肌の色をしているロジックは、血と肌の色によって黒人社会と白人社会の両方から否定されます。そんな経験をしたロジックは黒人ラッパーが陥りがちな「黒人だけが差別を受けている」という方向にはいかず、タイトル『Everybody』の名の通り、あらゆる人種、あらゆる人々、つまり全ての人々が平等であるべきだ、というメッセージを打ち出します。そのうえで、自分と同じような状況にある人たちへの救済も行い、見事に世界中の人々を救うところに到達しました。彼も経験したうつ状態による自殺願望を乗り越えたことをベースに、自殺防止のためのホットラインをタイトルにした『1-800-273-8255』は、実際に自殺防止に役立ったという事実があります。*10前作の『The Incredible True Story』は大きなヒットにならなかったものの、今回のアルバムで本当にヒットを打ち出すことができました。しかし、残念なことに彼は次のアルバム『Ultra 85』を最後に引退すると宣言しています……*11

     

     

  9. 4:44 - Jay-Z

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     僕の最も尊敬するアーティストであり、ヒップホップ・レジェンドの一人であるジェイ・ジーがアルバムをドロップした、という事実だけで米三杯くらい食えました。なんとこれが13枚目のアルバム。これはとにかく、もう、原点回帰というか、なんというか……

     年をとっても健在のリリシズム*12と、フロウ。伝説です。あと個人的に一番嬉しいのが、名前を「JAY Z」から「Jay-Z」に戻したことで、これが一曲目の『Kill Jay Z』にもあるように、コマーシャル寄りになっていた「音楽業界におけるJay Z」、過去様々な悪事を働いたスターになった後の「Jay Z」など、あらゆる自分自身を「殺し」、一からのスタートを切る、といったメッセージになっています。浮気を告白し、妻であるビヨンセに謝罪しているのも、母親は実際にはレズビアンでありながら自分と兄弟を生み、育ててくれた感謝を述べているのも。いろいろ感極まって泣きそうでした。

     

     

  10. DAMN. - Kendrick Lamar

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     Damn. こんなアルバムありか!?ズルいです。スターダムにのし上がったケンドリックは自身を神に擬えながら、様々なトピックに触れます。とにかく聞いてください。『LOYALTY.』と『DUCKWORTH.』のビート最高なんですが、どちらも僕の大好きなプロデューサーであるナインス・ワンダーが関係しているようで。『DUCKWORTH.』はナインスが作ってるので言わずもがなですが、『LOYALTY.』はラプソディの前作『Crown』から『#Goals』のビート制作現場にいたテラス・マーティンのアイデアで作られたそうで、もちろん『#Goals』はナインスがプロデュースしてます。

     

     

  以上、2017年のTOP10アルバムでした。

 


 

  正直、ほかにも腐るほどいいアルバムあったのですが、ふたを開けてみると案の定オールヒップホップで、結局こうなるのか~~といった所存です。他にも紹介したいアルバムがたくさんあるので、ここからは番外編というか、ノミネート編というか、聴いたやつです。カテゴリ別で紹介します。

 

 

 

 


 

 今年は日本語いっぱい聴いたなあ……去年も豊作とか言ってた気がするし……

 

 おやすみ

 

追記 リンク貼っておきました

 

 

4:44 [Explicit]
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*1:ケンドリック・ラマーのアルバム『To Pimp A Butterfly』の一曲。元々の故郷であるアフリカを訪ねた時の話になっている

*2:家族、友人、故郷など

*3:パーティ↓とパーティ↑には違いがあり、前者はホームパーティ的なやつで、後者はクラブなどで行われる大規模なもののことを指します

*4:アンダーグラウンド、つまりクラブ等の所謂「現場」と言われるところでは、マリファナなどのドラッグや犯罪が蔓延っており、それを描写している

*5:Base「MADNASPAIN」をiTunesで

*6:スワッグ、またはスワグ。カッコよさやスタイルなど、自分の特徴に対し大きな自信を持っていること。または自分の特徴そのもの。

*7:フランス語でdouble entendre。同時に二つの意味を持つこと。

*8:Joey Bada$$ On What Black History Month Means To Him - YouTube より

*9:クー・クラックス・クラン - Wikipedia

*10:1-800-273-8255: Logic Song Ups Calls to Suicide Prevention Lifeline – Variety

*11:Logic Confirms Next Album Will Be His Last | Complex

*12:叙情詩的な趣。叙情主義。ラップにおいては、リリックにおける表現力を指す。